2019年5月31日金曜日

終戦〜逆襲のシャアまでの経緯(3)

 アバオアクーから脱出したシャアを含む一行はまずサイド3に立ち寄り、そこからアクシズを目指した。燃料を補給し、アクシズへ向かう人員を選別するためである。ムサイ等は追加の燃料タンクが無ければアクシズまでは辿り着く事は出来なかった。またアクシズに向かう兵員は再び連邦軍の配下になる事を嫌う根っからの職業軍人とその家族、そして戦犯扱いになる事が予測される高官とその家族が中心であった。アクシズにとって幸運だったのはモビルスーツ乗りが多く参加した事だ。なぜなら貴重なモビルスーツ乗りは軍に慰留させられる可能性が高く、そうなると連邦軍の配下で働かずを得ないのだが、それはジオン軍人にとって受け入れ難い事だったからだ。こうしてアバオアクーの敗戦から連邦軍がサイド3に乗り込んでくるまでの間に彼等は慌ただしくサイド3を発ちアクシズに向かった。


 問題はキャスバルであることを明かしたシャアのポジションであった。ジオンズムダイクンの遺児であるということは本来であればアクシズの絶対的君主になり得る存在なのだが事はそれほど単純では無かったのだ。
 まずダイクンがザビ家に暗殺されたという噂は当時から既に有った。そういう状況でダイクンの遺児が名前を変えてジオン軍に潜り込み、ガルマザビを庇いきれずに失脚。その後復活してからザビ家の主要メンバーが全滅した後に正体を明かす。この事が意味するのはザビ家によるダイクン暗殺の噂は本当で、シャアはザビ家に復讐を果たしたのでは無いかと言う疑惑だ。そしてその疑惑はシャアが連邦軍とも内通していたのでは無いかという更なる疑惑をも生み出す。また、シャアはジオン軍内での権力争いでそれなりに敵も作って来たので、シャアを快く思っていないジオン将校はアクシズにも一定数存在した。こうした状況を考慮すると、シャアを君主としてアクシズが纏まるとは考えにくい状況であったのだ。なぜならアクシズにはザビ家体制下のジオン軍高官が多かったからだ。


 とは言うもののキャスバルのジオン復帰は既に喧伝されていたし、それはジオン残党をまとめる上での強力なカードになる。そして実際にキャスバルはいるので、アクシズとしてはこの状態を利用しない手は無かった。ただ実際にシャアをキャスバルとして担ぎ出すとアクシズ内をまとめる事が難しくなる。ガルマとキシリアの死についてシャアに疑念の目を向けるものも多かったからだ。そこで採用されたのが影武者をキャスバルとして君主に置くという方法であった。これはシャアという若く有能な軍人を実動部隊で使えるのでアクシズにとっても好都合であった。そしてシャア=キャスバルの噂は当時既に広まっていたので、その噂を逆手に取る形で影武者はシャアに似ている男が選ばれる事になったのだ。

2019年5月28日火曜日

終戦〜逆襲のシャアまでの経緯(2)

 アバオアクーでキャスバルである事を明かし、残存勢力を率いてアクシズに逃れたシャアはそこで同じく落ち延びて来たミネバを権力の座には付かせなかったが、アクシズ軍事政権の中枢で保護(かくまう)し、政治的リーダーにマハラジャ•カーンを立て、自らは総帥として全軍を指揮する事となった。マハラジャ•カーンは元ダイクン派だったが、なし崩し的にザビ政権に取り込まれ、大戦中からアクシズに左遷されていたジオン公国軍の高官である。


 ザビ家の末裔とダイクンの遺児を抱えるアクシズは宇宙にうごめく有象無象にとっては非常に面白い存在であり、彼等はアクシズが将来的に台頭して来た時に備えて積極的な先行投資を行い、アクシズは着実に住環境や戦力を整えて行く。兵器に関しては旧公国軍の物を使用しつつもUC0083年代には既に新型MSや艦船の開発計画が始まっていた。


 このようにアクシズの運営は順調に軌道に乗りつつ有ったがUC0083年にティターンズが結成された事によって雲行きが怪しくなる。当初は静観していたアクシズだがUC0085年の30バンチ事件(反連邦政府運動を毒ガスで弾圧)など、ティターンズによるスペースノイド独立運動の弾圧がエスカレートするにつれて危機感を募らせていったアクシズは対応策を協議する事になった。アクシズの存在におけるジオン残党の存在事態はデラーズフリートの決起等を通して連邦に把握されていたからだ。


 丁度この頃、地球連邦内でティターンズに対立する組織が台頭してくる。A.E.U.Gつまりエウーゴである。エウーゴは地球至上主義に反対する連邦軍内のスペースノイドを中心とした組織で正式名称は(公式と違い)Anti Earth Unilateralism Guild と言うが、当初は連邦軍内の相互扶助組合であったものがティターンズの台頭に伴い軍事組織化しつつあったものである。当初の出資者は連邦政府内の反主流派に属する国家や企業などであったと言うが軍事組織としての発足当初は過激派扱いであった。


 このエウーゴに目を付けたのがアクシズで、シャアは連邦軍の軍籍とクワトロの偽名を非合法に入手し、配下の兵士や工作員と共にエウーゴに潜入した。エウーゴという組織の名前を借りてティターンズを叩くという戦略を取る事にしたのだ。クワトロはスペースノイド寄りの思想(この時代のリベラル思想)を危険視され連邦軍に軟禁されていたブレックス•フォーラ准将を救出し、その人脈を利用してアナハイム•エレクトロニクスの会長との接触にも成功し、エウーゴを大きく成長させる事に成功した。これによってエウーゴは地球と宇宙の数カ所に拠点を構える軍事組織としての体裁をなす事になる。


 さらにクワトロは地球圏のジオン残党兵士を取り込みつつもエウーゴにジオンのイメージをつけないためにジオン系モビルスーツや艦船の使用を禁じる等の方針を打ち出し、エウーゴ=連邦軍の一派であると言う事を強調した。これはあくまでも内側から連邦軍と連邦政府を改革する事でスペースノイドに有利な状況を作り出そうという方針によるものであったのと、最終的には「連邦軍内におけるエウーゴとティターンズの内乱」という状態に持ち込み、その結果としてエウーゴに連邦軍の覇権を握らせたかったからである。つまりこの時点でクワトロは連邦政府そのものを改革すれば平和裏にスペースノイドの自治独立を獲得出来ると言う穏健な思想にシフトしていた事になるが、それはエウーゴという組織の中で指導的なポジションを与えられていた充足感に原因が有ったのかもしれない。


 一方でUC0085年あたりからティターンズも単にスペースノイド独立運動の過激派を弾圧するだけの組織に留まらず、連邦軍全体を支配しようと言う覇権主義的な性格を強くしていき、自らの権限を拡大するための工作としてジオン残党に裏から資金を流して育てるというマッチポンプ方式で自らの必要性を強調するなど、暴走をはじめて行く。


 こうしてUC0086年頃からエウーゴのティターンズの抗争が顕在化して来る中でアクシズでは異変が起き始めていた。エウーゴの活動にかまけてアクシズを顧みないシャアの行為を裏切りと見なした一部の将校達が立案し、ミネバ•ザビを君主として既に死去していたマハラジャ•カーンの娘であるハマーン•カーンを摂政とする新生ジオン公国、つまりネオジオンを興す方向で動き始めたのだ。


 そしてエウーゴとティターンズによるグリプス戦役が激化する中、第三勢力としてハマーン•カーンのネオジオン(つまりアクシズ)がアステロイドベルトから地球圏に進出してくる。しかしこのネオジオンの早すぎる決起はアクシズを単なる過激派に貶めるものであり、長いスパンで政治的な正当性をもってジオンを再興させる事を考えていたシャアにとっては容認出来るものでは無かった。その一方でハマーンの狙いはグリプス戦役のドサクサに紛れてサイド3を奪還し、新生ジオン公国の基礎を築く事にあった。


 エウーゴとネオジオンはティターンズという共通の敵を前にして一時的な不可侵条約を結ぶが、そのスキを付いてネオジオンはサイド3とグラナダを制圧し、ジオン公国の再興を宣言する。しかしそれは過激派にジオン共和国が乗っ取られたというのが実情であり、民衆の支持を得ているとは言い難い状況であった。ただ、サイド3を巡る攻防戦に駆り出されたティターンズはそれによって戦力を低下させる事になった。これは当時の連邦政府内で既に暴走するティターンズを疎ましく思う流れが顕在化していたため厄介払いの意味もあってティターンズがサイド3攻防戦に駆り出されたという側面も大いにあったのだ。


 ここで戦力の低下したティターンズに支持基盤を拡大し戦力の増大していたエウーゴが一気に攻勢をかけ、ティターンズを壊滅させる作戦に出た。しかしこの作戦の中盤でネオジオンがエウーゴとの不可侵条約を破り、ティターンズとエウーゴの双方に攻撃を仕掛けて来る事で三つ巴の戦いに発展してしまう。


 ところで、なぜネオジオンはエウーゴに攻撃を仕掛けたのか。この当時既にティターンズは過激な行動がアダとなって既に支持を大きく失っており、ネオジオンとのサイド3攻防戦で戦力もダウンさせていた。その結果、対抗勢力であるエウーゴが連邦軍内で支持を集め始めていたが、それはグリプス戦役という「連邦軍内部の内乱」においてエウーゴが勝利する事を意味していた。となればティターンズに勝利した後のエウーゴは正当な連邦軍として機能する事になるのだが、グリプス戦役でティターンズという精鋭部隊と戦って来たエウーゴが連邦軍における最強の精鋭部隊となりネオジオン討伐に駆り出される事は明らかであった。故にグリプス戦役が終わる前に少しでもエウーゴの戦力を削いでおきたいと言うのがネオジオンの考えだったのだ。そしてこの三つ巴の戦いの中でティターンズは壊滅し、シャアは行方不明となり、カミーユは精神に異常をきたしてしまう。


 なお、エウーゴがネオジオンと戦った事は連邦軍上層部でエウーゴに対する信頼性と評価を大きく向上させる結果となり、結果的にエウーゴは連邦軍に正式な精鋭部隊として組み込まれ、ネオジオン討伐のための主力部隊として利用される事になる。これはネオジオンにとっては皮肉な結果となった。仮にネオジオンがエウーゴを叩きに出て来なければジオン残党兵の多いエウーゴは対ネオジオン戦争の主力から外されていた可能性もあるからだ。ただ、それでもやはりジオン出身者はエウーゴが連邦軍に組み込まれるに当たって排除され、その代わりに自由な進路選択を許されたと言う。なお連邦軍に取り込まれたエウーゴの機体は順次連邦軍カラーに塗装されて行く。そしてこの部隊、つまりエウーゴからジオン出身者を除いた部隊は後にロンドベル隊となる。


 またネオジオンに制圧されたジオン共和国も黙ってはいなかった。最初こそ大戦後もアクシズに潜伏していたジオン兵に対する畏怖の念を抱いてはいたがハマーンの若さと幼いミネバを担ぎ出す手法、そして何よりかつてジオン公国を破滅に追い込んだギレンやキシリアを彷彿とさせる専制的なやり口を危険視する声は次第に大きくなっていく。そして連邦との和平を経てジオン共和国の主流派となっていた穏健派(デギン派、反ザビ派、ダイクン派)がハマーンがアクシズに帰投したタイミングを狙って共和国内に入り込んだアクシズ関係者を拘束、共和国軍を動かしてアクシズにサイド3からの撤退を要求したのだった。この時に内通者として共和国に利用されたのがグレミー•トトであった。この共和国政府の決断は今のアクシズと組むよりも、対決姿勢を明確にして連邦政府からの信頼を得た方が自治独立を実現するための現実的かつ確実な道だろうと共和国政府が考えたからである。実際、この行動が認められ、ジオン共和国は自治権を大幅に取り戻す事に成功する。


 こうして孤立したハマーンのアクシズに対して連邦軍の精鋭部隊と化したエウーゴの攻撃が始まり、ネオジオンはハマーンの戦死とアクシズの破壊により瓦解し敗北する結果となった。なお、この時エウーゴの独立部隊として機能したネェル•アーガマにはジュドー等が搭乗していた。グリプス戦役の終盤にネオジオンが参戦して来てから瓦解するまでの戦いを第一次ネオジオン抗争と言う。


 ところで、ジオン独立戦争後にサイド3の外れに難民収容のために建設されたスウィートウォーターと言うコロニーが有ったが、ここにはサイド3に向けて亡命して来た者などジオンシンパの難民が多くくらしていた。このいかにも過激派の温床となりそうな環境に目を付けたのがグリプス戦役後のシャアで、シャアはダイクン派の人脈を利用し「Red Comet Foundation(赤い彗星基金)」を設立し 自らの存在を臭わせながら、スウィートウォーターの人民を救済していく活動をUC0088年から開始して次第に影響力を拡大していく。そして共和国政府のダイクン派の手引きによりグラナダのアナハイムと接触し、新造戦艦とモビルスーツの開発生産に着手した。


 そしてUC0092年、満を持して完成した艦隊を率い公にスウィートウォーターに進出、住民の圧倒的支持を得て、コロニー内でホログラム映像を使いネオジオンの発足を宣言する。外交権を取り戻していたジオン共和国はこのシャアのネオジオンと同盟関係を結ぶ事を発表し、ネオジオンは実質的にジオン共和国軍の精鋭部隊となる。自治権を獲得したとは言え、当時のジオン共和国は新造戦艦やモビルスーツの開発が許されておらず、旧式艦や連邦軍から払い下げられたハイザック等を使用していたから、最新兵器を装備するシャアの艦隊が存在する意義は非常に大きかったのだ。


 そしてUC0093年、シャアのネオジオンは連邦軍に対して宣戦を布告し、艦隊戦の末、ロンドベル隊のアムロ•レイ等と交戦しつつも5thルナを制圧。いつでも地球に落下させられる状況を作り出した上で連邦政府に停戦の条件として、アクシズの売却とスウィートウォーターをジオン共和国に正式に編入させる事、さらにジオン共和国に完全な自治権を復活させる事を要求する。


 これらはかなり大胆な要求であったが、その引き換えとしてシャアがネオジオンの武装解除と言う驚くべき提案を出した事により受け入れられる。連邦軍としてはネオジオン艦隊を欠いたジオン共和国軍などは現在の戦力比で言えば敵では無かったので、後で難癖を付けてジオン共和国軍を叩く事は可能であったのだが、彼等にその気が有ったのかは定かでは無い。しかしシャアとしては当然そうした実情は理解していたので、この完全な自治権の復活にシャア自身やジオン共和国政府は何の価値も見いだしてはいなかったし、それが仮初めの完全自治権である事は誰の目にも明らかであった。ジオン共和国軍を偽装した連邦軍の特殊部隊がどこかのサイドで一暴れすれば簡単に消し飛ぶ程度の物だったからだ。そして事実、この停戦協定は見せかけの欺瞞であった。


 そして共和国軍の旧式ムサイ艦隊の護衛のもと、第一弾として艦隊の半数を率いてルナツーに武装解除のために現れたシャアは協定を翻し、ルナツーの連邦軍艦隊に攻撃を加え、これを制圧。ルナツーという連邦軍最大級の軍事拠点を黙らせた上で残りの半数の艦隊を率いて既に入手していたアクシズを地球に落下させる作戦に着手するのであった。


 ところでなぜシャアはアクシズ落とし等と言う急進的な手段に訴えたのか。大戦後エウーゴで平和的かつ政治的に連邦政府に働きかけてスペースノイドの自治独立を実現しようと動いてはみたものの、そこで連邦政府だけでは無くエウーゴ自身の腐敗も間のあたりにしたシャアはハマーンのネオジオンを見て初めはその過激で急進的な手法を否定するものの実際に戦って行く過程でそこから学ぶ事もあり、結局は「いつか誰かが業を背負わなければならない」という考えに行き着いたのだった。

2019年5月23日木曜日

終戦〜逆襲のシャアまでの経緯(1)

 アバオアクーでキャスバルである事を認めたシャアは艦隊を率いて地球圏を離れアステロイドベルト(小惑星帯)のアクシズに脱出。なお新約ガンダムにおける当時のアクシズは小惑星を中心に環状のスペースコロニーが形成されており、その環状コロニーの回転軸(AXIS=アクシス)になっている事からアクシズと名付けられた事にしたい。「ス」が「ズ」になるのはジオン訛りと言う事で。アクシズは公式設定通りジオンが木星への中継基地として利用していたため、当時から居住施設は有った。


 問題はここにミネバ•ザビとその一党も脱出して来た事であったが、ミネバの艦隊はグワジン1隻と護衛のムサイ2隻のみで戦力としてはシャアの艦隊が圧倒しており、またミネバ一党に既に母子だけになったザビ家を守るために戦う士気も無かった。都合が良かったのはミネバ一党がドズル派で有った事だ。シャアが率いていた兵達の多くはギレンとキシリアの恐怖政治に反発していたのであって、デギンの政治や武将としてのドズルは支持していた。またシャアも自分が祭り上げられたのはアバオアクーでのギレンとキシリアの恐怖政治から逃れたい兵達の一時的な熱狂によるものであり、それが永続するものでは無いと言う冷静な自己分析が出来ていた。つまりもしここでザビ家に対する私怨から幼いミネバを殺害すればアクシズは一気に混乱に陥り空中分解するだろうと考えたのだ。そして何よりジオンの遺児とザビ家の遺児が共存すると言う事がジオンの後継者を名乗る上で好都合であった事からミネバ一党でデギン•ザビの側近で有ったマハラジャ•カーンを摂政に立てて自らは総帥として実質的なアクシズの指導者となった。もちろんシャアはまだ20代前半であったので優秀なブレーンをワキに抱えての事だったが。このシャアの判断は極めて政治的なものであり既にジオンの再興とスペースノイドの自治独立を最終目的にしている事は明確であった。


 ところがアクシズの運営が軌道に乗りかけてきた時、地球圏で異変が起きる。大戦後の地球連邦軍の再建が本格化し、UC0083年にジオンの残党狩り組織であるティターンズが発足したのだ。当初は静観していたアクシズであったがUC0085年末くらいには看過出来ない状況になり、対策の検討が始まる。連邦の目は未だアステロイドベルトまでは届いていなかったが、このままティターンズが成長を遂げると自分達も存続の危機に陥ると予想されたからだ。


 ただ当時のアクシズの戦力では表立ってティターンズに対抗すると連邦軍の圧倒的な戦力で潰される事は明白であった。そこでシャアはアクシズから有志を率いて密かに地球圏に旅立った。クワトロ•バジーナを騙り反地球連邦組織のエゥーゴの設立に尽力し、これを持ってティターンズを叩く作戦を取る事にしたのである。何もシャア自ら出向かなくともと思われたが、こうした仕事はシャアの政治力と人脈が無ければ当時のアクシズには不可能だったのだ。


 エゥーゴにおけるクワトロは予想以上の働きを見せ、人望も集めた。また赤いモビルスーツを駆る事で赤い彗星を仄めかしたので地球圏のジオン残党をかき集める事にも成功し、エゥーゴの指導者に推挙されるまでに至る。そして実際にティターンズを追いつめる事にも成功していたのだった。そしてクワトロも引き際を逃し、エゥーゴの活動にズルズルと引きずり込まれて行き、かつてのホワイトベースクルーと共闘するなど必要以上に深入りしてしまう。


 この状況をアクシズで苦々しく見ていたのがマハラジャ•カーンの娘であるハマーン•カーンだった。ティターンズが壊滅状態に陥り、エゥーゴが連邦軍内で正当性を持つに至ってもまだ身を引こうとしないハマーンはクワトロに痺れを切らした。ハマーンから見ればクワトロの振る舞いは裏切りに等しかったのだ。そしてハマーンはミネバを立ててザビ家の再興を旗印にネオジオンとして名乗りを挙げて、エゥーゴとティターンズの戦いに介入して来たのだ。


 一方でシャアから見てもハマーンの行動は容認出来るものでは無かった。時期尚早なネオジオンの決起はアクシズを単なる過激派に貶め、長期的に見ればマイナスにしかならない事は明らかであったからだ。また、当時既にナチスのような扱いを受けていたザビ家を表に出す事も甚だしいイメージダウンであった。この結果、シャアはアクシズに見切りをつけ、それと同時にアクシズのコアな親ダイクン派もハマーンに見切りを付けてシャアとの接触を計ろうとしていた。


 しかしもちろん、シャアとしては連邦軍に与する気は毛頭無かった。ハマーンと決別した後にエゥーゴのメンバーに地球連邦の首相を目指す事を勧められて気が揺らいだ事もあったが、エゥーゴに参加する事で改めて連邦の腐敗を実感して地球の社会に幻滅した事でスペースノイド自治独立を目指す決意はより強固になったのだ。そしてグリプス戦役が終結すると同時にその混乱に紛れてシャアは姿を消し、自分に賛同するジオン残党その他のスペースノイド勢力を結集させて新生ネオジオンの結成を目指す事になった。


 そしてUC0092年、シャアは手持ちの艦隊を率いてスペースコロニーのスウィートウォーターを占拠しネオジオンとして名乗りを挙げた。しかし保有艦船の数でも50隻に満たない彼等の戦力では連邦軍に勝利してスペースノイドの自治独立を確立するなど到底不可能であった。なお連邦軍によるジオン残党狩りが進んだ結果、この時点でシャアのネオジオンを凌ぐ規模の勢力は存在していないし、旧ジオン公国を増長させた教訓を得た連邦政府が再びあのような軍事大国の台頭を看過する可能性も無かった。このままではスペースノイドの自治独立の芽は永遠に刈り取られてしまう。そう考えたシャアは最後の手段とも言える大きな駆けに出たのだった。


 アクシズを地球に落として全てのアースノイドを抹殺するという計画である。






2019年5月22日水曜日

サイド3の革命から開戦までの流れ

  UC50年代前半、全てのサイド都市における政治システムは上院下院の二院制であり、上院は連邦政府の議員で占められており、サイド市民が選挙で選べるのは下院議員のみであった。そして法案の通過には上院の承認が必要であったため、地球系大企業から献金を受けた上院議員と、さらにそのおこぼれに預かろうとする下院議員によって地球系大企業に都合の良い法案が次々に可決されていき、サイド3における貧富の差は拡大していた。



 月の裏側に位置していたサイド3は月面開発や鉱物資源採掘の関係で工業系労働者が多いサイド都市であったが、それゆえに状況はさらに厳しく、サイド3市民の不満は爆発寸前であった。そうした中、スペースノイドの自治独立を説いた著作を出版した政治思想家のジオン•ズム•ダイクンが、当時サイド3で独立運動に参加していたデギン•ソド•ザビやジンバ•ラルの手引きでUC0052年にサイド3に移住する。


 その結果、独立運動はさらに加熱し盛り上がって行くが、関係者の検挙や不審死、内部分裂などのトラブルが相次ぎ闘争は泥沼化し膠着状態に陥り、運動が下火になっていく。ところがその時、デギン•ソド•ザビに出資を持ちかけて救いの手を差し伸べた男がいた。スペースコロニー間の輸送事業で頭角を表した新興大資本ローゼンベルク家の当主クライド•ローゼンベルグである。


 しかし実はこの男は食わせ物であった。そもそも独立運動の関係者に検挙や不審死、内部分裂などのトラブルが起きた事自体がローゼンベルク家の差し金であり、弱らせた上で助けて独立運動そのものを乗っ取るという計算であったのだ。そしてさらにローゼンベルク家にその指示を出していたのが(いつの時代も存在する)世界規模の巨大財閥群であった。


 では何故彼等はサイド3の独立運動に出資しようとしたのか。そもそも彼等は圧倒的に連邦政府寄りの立場であり、当然ながらその莫大な資金力によって連邦政府にも絶大なる影響力を与えていた。彼等の考えはこうだった。”スペースノイドの自主独立運動はこの先いくらでも出てくる避けては通れない問題である。であれば、その最大手に浸透しこれをコントロールする事で無害化し、ガス抜きの場として機能させる事にしよう。さらに最終的に武装させて過激化させれば、それを利用してスペースノイド独立運動=悪のレッテル貼りを行う事が出来る。" 
 こうした計算の元、ダイクン一派に莫大な資金が流れ込み、彼等はムンゾ共和党を組織し、運動は大きく発展する。この時、ローゼンベルク家とダイクン一派の窓口に選ばれたのが政治力に長けたデギン•ソド•ザビであった。


 この結果、ムンゾ共和党内でデギンが実権を握る事になり、ダイクンが象徴的指導者、ジンバラルはその側近であるという体制が出来上がった。それでも政権を取る等と言う事は力学的に不可能な状態であったのだが、ダイクン一派を支持する独立派の市民運動が暴徒化し連邦軍の駐留部隊と衝突するという事態が起きるに至った。


 ところが大半がスペースノイド出身者で占められていた連邦駐留部隊は士気が著しく欠けており多くの者が任務を放棄し、サイド3出身者に至っては勝手に部隊を結成して独立運動の側についた。これによってパワーバランスは一気に独立運動側に傾き、連邦による傀儡政権の象徴であった議会を占拠、上院議長などがサイド3を脱出するに至り、革命が成就した。この結果ムンゾ共和国による革命政権が誕生し、初代首相にジオン•ズム•ダイクンが就任した。革命政権は独自の立法権と軍事力の保有を連邦政府に認めさせ、ここに後のジオン公国の基礎が築かれたのだ。UC0058年の事である。なお、この事変を機に連邦軍はコロニー駐屯部隊の編成を大きく変更した。具体的には地球出身者の割合を増やし上層部に集中させ、かつ当該サイドの出身者を含まないようにしたのだった。


 この後ローゼンベルク家はムンゾ共和国への出資をさらに本格化させ、息のかかった人材を政権中枢に送り込んで行く。また大資本が出資しているという事実が彼等の信頼を大きくし、それはさらに新規の出資を呼び込んでムンゾ共和国の国力は増強されていき、UC0065年の時点で駆逐艦30隻からなる独自の艦隊を保有するに至った。


 ところがこのあたりから実権のデギン=象徴のジオンズムダイクンという構図が明確化していき、ダイクンの思い通りに事が運ばなくなって行く。そしてそのストレスからダイクンの思想と行動は過激化していき、かねてからの愛人であったアストライアとの仲も隠そうとはしなくなりメディアに嗅ぎ付けられるのも時間の問題であった。一方でデギンはそうしたダイクンの尻拭いをするのに奔走する日々で、デギンとダイクンの仲は急速に冷えて行った。


 このままではムンゾ共和党による革命政権の存続すらも危うくしかねない。デギンはそう考えていたが、それはクライド•ローゼンベルクも同じであった。そしてローゼンベルクが"ダイクンを暗殺してカリスマ化した方が今後のムンゾ共和国のためになるのでは無いか"という事をそれとなくダイクンにほのめかし、ダイクンはそれを否定しなかった。そしてローゼンベルク家のエージェントによってダイクンは毒殺され、ムンゾ共和国はジオン公国となり、名目ともにデギン•ソド•ザビが権力の座についたのだった。UC0068年の事である。
 なおダイクン暗殺の真相を知っているのはザビ家ではデギンのみである。これによりますますローゼンベルク家はサイド3への出資と浸透を加速させ、ジオン公国は軍事大国化していった。デギンは「ムンゾ共和国全体のために、既に常軌を逸したダイクンを英雄のまま葬り去ってやるのだ。」と考えたのだった。

 
 ところでUC0058年のムンゾ革命ではサイド3による自治独立は勝ち取ったものの根本的な政治システムはぞれ以前と同じ資本主義であり、故にサイド3に多く暮らしていた労働者階級の暮らしはさほど大きく改善されたわけでは無かった。そこで権力の座についたデギンは行き過ぎた資本主義こそが諸悪の根源であるという独自の政治理念に則り、ジオン公国を国家社会主義化し、経済に政治が大きく介入する事で "強い多数派"としての中間層を生み出して国力を高めようとした。
 尤も社会主義といってもザビ家の権力基盤そのものがローゼンベルク家の出資によって成り立っていたため「社会主義ゴッコ」とでも言うべき形骸化したものではあったが、逆にだからこそこの方針は成功し、ここから独立戦争までの約10年間、ジオン公国はコロニー都市としては最高レベルの繁栄を謳歌する事になった。この"デギン治世下における繁栄の10年間"がジオン国民の士気を高め、その繁栄の記憶とムンゾ革命の成功体験が敗戦後も続く抵抗運動のモチベーションになったのだ。


 一方で、デギンの最大の感心事は国内政治にあり独立そのものでは無かったから、この頃のジオン公国でもまだ国内に連邦軍の駐留を許しており、デギンはそうした状況を変える気もなかった。ローゼンベルクもそうした"連邦の手の平の中での独立”を望んでおり、彼の息のかかった者達が政権中枢に巣食ってそういうシステムを助長させていたのだった。一方この頃既に成人して政治と軍事の両方に介入していたギレン•ザビとキシリア•ザビは連邦駐留軍を追い出した完全な独立を理想としていたので、この状況が面白く無かった。そうした中で起きたのがUC0077年のシャア•アズナブルとガルマ•ザビ率いるジオン士官学校生による駐留連邦軍基地襲撃事件、つまり暁の蜂起であった。


 ギレンとキシリアは暁の蜂起直後の混乱を見逃さず、デギン周辺に巣食った「連邦の息のかかった者達」つまりローゼンベルク家のエージェント達を排除するべくクーデターを起こし、これによりデギンは実質的に実権を失う事になる。そしてローゼンベルク家はジオン公国に対する政治的コントロールを大きく失い、連邦駐留軍はジオン公国から撤退し、事態は一気に開戦へと向かう事になった。出資者が育てた軍事大国がそのコントロールを外れて連邦に牙を向いてきたのである。

2019年5月21日火曜日

連邦軍カラーのザク

 0083で連邦軍カラーのザクというのが設定されたが、これだとジオンの寒冷地用と見分けがつきにくい。まぁ無しとまでは思わないが。


 では連邦軍カラーってそもそも何だと言うとコレでは無いのか。


 と言う事は連邦軍カラーのザクっていうのはこんな感じになるはずだ。やや赤がうるさいのと黄色の使い方が残念だがかなり良い解釈だろう。肩のスパイクアーマーが無いのも連邦軍らしくて良い。


 このような連邦軍カラーのザクはオデッサ作戦前から配備され始め、ジムが普及した後は後方任務に回されるなどしたと言う。全体で100機近くが実働したと言われている。最終的にはジムを用いたパイロットの訓練での適役に回された。