2019年5月8日水曜日

ブリティッシュ作戦〜ルウム戦役

 公式設定ではこれらの緒戦でジオンはサイド1、サイド2、サイド4、サイド5を壊滅状態に追い込んでいる。しかし、コロニー落としも含めて、こうした悪行の数々があってはスペースノイドはおろかジオン国内の支持さえも得られず、兵士もジオンから逃げ出すレベルである。つまりリアリティが無い。この一連の流れにもう少しリアリティを与える事が重要だと考える。

 まずジオンは公式設定どおり、開戦後まもなくサイド1、サイド4、サイド2の宙域で戦闘を始める。ここまでは良い。


 ではこの時期の各サイドの状況はどのようなものだっただろうか。そこからオリジナル設定を考えて行きたい。

 ではブリティッシュ作戦におけるサイド1、サイド4、サイド2の状況から。

ブリティッシュ作戦

サイド1のケース

 まずサイド1(ザーン)。サイド1は公式設定通り、ソロモンに最も近いサイドだった。ソロモンはレジャー施設などの名目で開戦前からジオンが要塞化を進めており、その労働者はサイド1からも流入していた。第一号サイドであるサイド1には低所得者が比較的多く居住していたのだ。こうした流れでサイド1は親ジオンの風潮が強く、スペースノイドの自治独立を掲げる政党が政権を取っていたのだ。いわば小ジオンといったサイドであり、第二次大戦におけるナチスドイツ(ジオン)とムッソリーニのイタリア(サイド1)のような関係がそこには有った。


 そうした中でジオンが宣戦を布告し、ソロモンの目と鼻の先にあるサイド1の連邦軍駐留艦隊は攻撃を受ける事が明白であった。ここで連邦軍駐留艦隊はサイド1のザーン防衛軍に協力を要請する。しかしザーン政権はこの戦いはあくまでもジオンと連邦の戦いであるという事を理由に協力を拒否。これは事実上、ジオンの味方につくも同じ事であった。表向きの理由としてはソロモンの目と鼻の先にあるサイド1はもし連邦軍に協力するとジオンが勝利した際に国民の安全を保証出来ないと言うものであった。

撤退するサイド1の連邦軍駐留艦隊


 結果的にサイド1はあっさりとジオンの手に陥落。連邦軍に協力しないサイド1国民を守る意味も無い連邦軍はほとんど抗戦する事無く撤退し、その直後にジオンとサイド1は同盟関係を結んだ。つまりサイド1は1週間戦争ではほぼ無傷であった。

サイド4のケース

 次にサイド4(ムーア)。サイド4はサイド1に比べるとソロモンより遠く、ジオンとの関係も希薄であり日和見的な極一般的なサイド国家であった。ジオンが宣戦布告をした際、サイド4の政権はムーア防衛軍をサイド4駐留の連邦軍指揮下に置き、ジオンに抗戦する道を選んだ。連邦軍としては連邦の側に付くサイドを見捨てるわけには行かないのと、ソロモン近辺に拠点が必要であるという二点の理由からサイド4の手前でソロモンからのジオン艦隊を迎え撃ち惨敗。ムーア防衛軍もあっさりとジオンに降伏し、結果的にサイド4はジオンの非占領地と言う立場に置かれた。この戦闘でコロニーに多少損害が出たものの、一般市民の死傷者はそれほど多くは無かった。また、開戦前からジオン派の市民はジオンに移住あるいは亡命するなどしていたが、ジオンはこうした難民を手厚い待遇で受け入れていた。スペースノイドの統率者を自認するザビ家の方針だったのだ。

抗戦するムーア防衛軍


サイド2のケース

 最後にサイド2(ハッテ)。ここは深刻であった。サイド6に近く富裕層が多く暮らすサイド2は保守的な傾向が強く、保守政党が政権を担っていた。またジオンが台頭する以前の最大の軍事コロニー国家であり、自ら宇宙の警察官を自負していたのだった。とは言ってもハッテ防衛軍はあくまでも連邦軍の配下として機能すると言う条約の元に存在していたのだが。

ジオンに継ぐ戦力を保有するサイド2のハッテ防衛軍艦隊


 このような状況に有ったサイド2はジオンの台頭に強く反発を示し、国民の多くも地球圏の秩序を維持するために連邦政府に強く賛同し、ジオンのスペースノイド独立の思想に反発していた。サイド2の国民から見れば連邦政府とアースノイドの関係は支配と被支配では無く、あくまでも協調関係に有ると言う考えだったのだ。これはサイド2が経済的に余裕があるからこそ取り得た立場であり、ジオンを始め多くの貧しいスペースノイド等はサイド2を「連邦の犬」と呼び忌み嫌っていた。実際、ジオン以前に小規模な反連邦政府運動を起こした他サイドのバンチがハッテ防衛軍によって鎮圧されると言う事件も起こっていた。またサイド2に対するテロ攻撃を仕掛けた組織も有ったほどである。サイド2は独立派スペースノイドの目の敵であったのである。

当時の新鋭艦であったサラミス級の使用をコロニー防衛軍で唯一使用を許可されていたのがハッテ防衛軍。そのサラミスは黄色く塗装されていた。


 このようなサイド2をジオンは宣戦布告の直後に攻撃した。ハッテ防衛軍と連邦軍駐留艦隊が共同でジオン艦隊に抗戦したが、結果はやはりモビルスーツ隊の活躍でジオンが圧勝しており、公式設定の通り首都バンチであるアイランドイフィッシュが毒ガス攻撃を受けて地球に落下させられた。このコロニー落としを見て溜飲を下げたスペースノイドも少なく無かったと言う。


 保有戦力が大きかった故に激戦の地となったサイド2は壊滅状態に陥り、生き残った市民はサイド6に逃れたり、ルナツーに避難後、サイド7に逃れたりしたと言う。以上がブリティッシュ作戦の流れであり、この中で壊滅したのはサイド2のみである。

 ところで、緒戦にジオンがサイド1、2、4を攻めたのには大きな理由が有った。それを表したのが下図だ。サイド5(ルウム)はジオンから見て月の反対側に有り、また地球、月、サイド3を結ぶ直線上に位置していたため、連邦軍にとっては対ジオンの再前線基地として重要な意味を持っていた。さらにジオンにとってもサイド5の連邦軍を駆逐しなければ地球に自由にアプローチする事が出来ない。故に緒戦におけるジオンの本丸はルウム攻略であったのだ。しかしいきなりルウムを攻めるとサイド1、4とサイド2の両側面から連邦軍に挟まれるので、まずはこれらサイド1、2、4を攻略する必要が有り、そこにブリティッシュ作戦の大きな意味が有ったのだった。


 このため、ブリティッシュ作戦でサイド1、2、4を攻略したジオンは次の段階として当然のようにサイド5攻略を目指す。これがルウム戦役である。

ルウム戦役

サイド5のケース

 ルウムの連邦軍基地は当然、市民の安全を考えてコロニーからある程度離れた所にあった。故にルウム戦役でコロニーは実際には対して傷ついてはいない。日露戦争における日本海海戦の影響が東京にも大阪にも皆無だったのと同じ事だ。コロニーへの被害は公式設定にあるようにシャア率いるモビルスーツ隊が陽動作戦として首都バンチであるミランダのドッグを破壊したとか、その程度である。

コロニーから外れた場所で行われたルウム戦役


 一方で、サイド5自体は連邦軍の再前線基地を置く以上、政権も連邦軍に全面協力していた。オリジンで描かれているようにサイド5の市民はジオン派と連邦派に割れて激しく対立したが、政権が連邦軍サイドであったためジオン派は弾圧され居場所を失い開戦前からジオン本国やサイド1と言った親ジオン派のコロニーに移住しており、サイド5には連邦派のみが残っている状態であった。

鎮圧されるルウムのジオン派のデモ


 このため連邦軍駐留艦隊が壊滅した後も、(コロニー落としに恐怖と怒りをおぼえた)ルウム防衛軍と市民は激しく抵抗を続け、オリジンで描かれたようにガルマザビ率いる鎮圧部隊がルウム戦役後に各コロニーの制圧、鎮圧、掃討作戦を行っている。さらにルウム戦役で完敗した連邦軍もルウム防衛軍を支援する為に再び艦隊を派遣している。ルウム戦役は沈静化するまでに一ヶ月近くかかったのである。サイド5が傷ついたのは実際にはこの段階で、つまりルウム戦役本戦の後である。半分以上のコロニーが打ち捨てられたり居住不能になったりして、ルウムは国家としての機能を失う。

 激戦となった首都バンチミランダの市街戦



 以上がブリティッシュ作戦からルウム戦役に至る関係コロニーの状況である。これならジオンも最低限の正当性は主張出来る範疇で物語の辻褄を保つ事が出来るだろう。

 そして問題は、その後のコロニーの処遇である。これは南極条約締結時に連邦とジオンの間で協議され、以後1ヶ月の間にその処置は相互に妨害する事無く速やかに行われたと言う。


 その内容は以下の通り。

サイド1(ザーン):激戦区となる事が予想されるソロモン宙域から逃れるためにコロニーごとサイド3に移送されジオンに組み込まれた。
サイド2(ハッテ):ブリティッシュ作戦でジオンに徹底抗戦した結果、壊滅。生き残った市民は基本的に連邦側に引き取られた。
サイド4(ムーア):ジオンのソロモンから逃れるためコロニーごとサイド7に移送され、連邦の管理下に置かれた。
サイド5(ルウム):コロニーごとサイド2の宙域に移送され、壊滅状態のサイド2と5が合併し、連邦の管理下に置かれた。

 以上である。一見、ジオンに不利なように見えるが反ジオンのコロニー国家を占領し続ける手間を考えれば、連邦に引き渡し事後処理を任せた方が得策であったのである。サイド4を手放したのは反ジオンの国民も多い同サイドを戦争遂行しながら管理運営していく国力がジオンに無かった事が理由で、ただしソロモンの眼前に置かれて連邦軍の再前線基地化する事は避けたかったので、サイド7に移送するという条件で連邦に引き取らせた。

ジオンの宇宙要塞ソロモン。0080の「ソロモン送り」という台詞からも解るように、大戦を通じて最前線であり続けた。


 サイド1についてはジオン合併直前に多くの亡命者や脱出者を出したが、5年間に及ぶ無税待遇などの優遇策をジオンが打ち出した事によってかなりの人民がジオン国民となった。これによってジオンは30基近いスペースコロニーと1億2000万人前後の人的資源を得る事になり、国力を大きく増強させた。

 その他、連邦派コロニーからもジオン派市民がジオンに移住するケースは多かったが、元サイド1はその受け口にもなった。スペースノイドの統率者を自認するザビ家はこうした難民を手厚い待遇で受け入れていたのであった。なお、サイド7は新規建設中のサイドであったため、ある意味サイド4との合併は好都合であった。

 そして、こうした南極条約による処置によってサイド1、サイド4、サイド5の宙域からサイド国家は消失した。しかしそれは戦争によって破壊されたからでは無かったのである。もちろん公式設定のように総人口の半数が死んだという事もない。そのような事態になれば、そもそも戦争自体が不可能な事は明白である。

 最後に、コロニー落としにおけるギレン•ザビの演説を考えたい。前述したようにジオンはジャブローに向けてコロニーを落とす事で連邦軍にジャブローを諦めるか、ジャブローを守る為にコロニーに攻撃を加えて一般市民に犠牲を出すかという究極の選択を迫った。これは連邦が市民を犠牲にする事を見越した上での作戦であり、連邦政府の統治者としての資質を問いただすものであった。


落下前

〜我々はサイド2の首都バンチをジャブローの連邦軍基地に落下させる軌道に乗せたが落着にはまだ数日の猶予が有る。連邦軍は速やかにジャブローの兵士を脱出させ、神妙にその時を待つべきである。もし連邦軍が落下するコロニーに攻撃を加えれば、コロニーは分解され、落着ポイントがズレて、一般市民に多大なる犠牲者が出る事は明白である。故に君たち連邦軍は抵抗をするべきでは無い。我々の要求は一つ。スペースノイドの自治独立であり、そのためには地球から武力で我々を支配する連邦軍を排除する必要が有るのだ。サイド2はご存知のように長年に渡り連邦軍の庇護を受けて強大な軍事力を誇り、独立を志す我々スペースノイドをその武力を持って弾圧して来た。彼等は今、その報いを受けているのである。なお、当然であるが我々の目的は地球市民を攻撃する事では無い。だからこそ、このように攻撃目標を事前に示し、連邦軍兵士にさえ避難する猶予を与えている。君たち連邦軍が武力によるスペースノイドの支配を諦めれば、この作戦は地球市民に1人の犠牲者も出さずに終わるのである。連邦軍首脳部は物事の優先順位を良く考えて正しい決断を下して行動してもらいたい。〜

落下後

〜地球市民とスペースノイドの皆さん。残念ながら連邦軍の無思慮な行動によってスペースコロニーは都市部に落着し、一般市民に多大な犠牲を出してしまった。これは悲しむべき結末である。彼等は地球市民を盾にして自らの軍事基地を守ったのである。このような地球連邦政府にはスペースノイドはもちろん、地球市民に対してさえも統治者として振る舞う資格が無い事は明らかである。我々ジオン公国は、しならくの後に地球に降下することを計画している。被害を受けて混乱する地球の都市部を復旧させて、秩序と平和をもたらすためである。腐敗し堕落した地球連邦政府が地球圏を統治する時代は終わり、スペースノイドの代表者である我々ジオン公国がその代わりを務める時が来たのだ。〜

 コロニー落としを含めたこれら一連の作戦行動でジオン(ギレン)はある一つの明確なメッセージを世界に発信した事になる。そしてそれは意図的に行われた事だ。つまり味方は手厚く保護するが、スペースノイドだろうと敵には容赦しないと言う事だ。故にスペースノイドを犠牲にする事はギレンの中では大義と矛盾していなかったのだ。このジオンの姿勢によって地球圏は大きく分断される事になった。

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