2019年5月28日火曜日

終戦〜逆襲のシャアまでの経緯(2)

 アバオアクーでキャスバルである事を明かし、残存勢力を率いてアクシズに逃れたシャアはそこで同じく落ち延びて来たミネバを権力の座には付かせなかったが、アクシズ軍事政権の中枢で保護(かくまう)し、政治的リーダーにマハラジャ•カーンを立て、自らは総帥として全軍を指揮する事となった。マハラジャ•カーンは元ダイクン派だったが、なし崩し的にザビ政権に取り込まれ、大戦中からアクシズに左遷されていたジオン公国軍の高官である。


 ザビ家の末裔とダイクンの遺児を抱えるアクシズは宇宙にうごめく有象無象にとっては非常に面白い存在であり、彼等はアクシズが将来的に台頭して来た時に備えて積極的な先行投資を行い、アクシズは着実に住環境や戦力を整えて行く。兵器に関しては旧公国軍の物を使用しつつもUC0083年代には既に新型MSや艦船の開発計画が始まっていた。


 このようにアクシズの運営は順調に軌道に乗りつつ有ったがUC0083年にティターンズが結成された事によって雲行きが怪しくなる。当初は静観していたアクシズだがUC0085年の30バンチ事件(反連邦政府運動を毒ガスで弾圧)など、ティターンズによるスペースノイド独立運動の弾圧がエスカレートするにつれて危機感を募らせていったアクシズは対応策を協議する事になった。アクシズの存在におけるジオン残党の存在事態はデラーズフリートの決起等を通して連邦に把握されていたからだ。


 丁度この頃、地球連邦内でティターンズに対立する組織が台頭してくる。A.E.U.Gつまりエウーゴである。エウーゴは地球至上主義に反対する連邦軍内のスペースノイドを中心とした組織で正式名称は(公式と違い)Anti Earth Unilateralism Guild と言うが、当初は連邦軍内の相互扶助組合であったものがティターンズの台頭に伴い軍事組織化しつつあったものである。当初の出資者は連邦政府内の反主流派に属する国家や企業などであったと言うが軍事組織としての発足当初は過激派扱いであった。


 このエウーゴに目を付けたのがアクシズで、シャアは連邦軍の軍籍とクワトロの偽名を非合法に入手し、配下の兵士や工作員と共にエウーゴに潜入した。エウーゴという組織の名前を借りてティターンズを叩くという戦略を取る事にしたのだ。クワトロはスペースノイド寄りの思想(この時代のリベラル思想)を危険視され連邦軍に軟禁されていたブレックス•フォーラ准将を救出し、その人脈を利用してアナハイム•エレクトロニクスの会長との接触にも成功し、エウーゴを大きく成長させる事に成功した。これによってエウーゴは地球と宇宙の数カ所に拠点を構える軍事組織としての体裁をなす事になる。


 さらにクワトロは地球圏のジオン残党兵士を取り込みつつもエウーゴにジオンのイメージをつけないためにジオン系モビルスーツや艦船の使用を禁じる等の方針を打ち出し、エウーゴ=連邦軍の一派であると言う事を強調した。これはあくまでも内側から連邦軍と連邦政府を改革する事でスペースノイドに有利な状況を作り出そうという方針によるものであったのと、最終的には「連邦軍内におけるエウーゴとティターンズの内乱」という状態に持ち込み、その結果としてエウーゴに連邦軍の覇権を握らせたかったからである。つまりこの時点でクワトロは連邦政府そのものを改革すれば平和裏にスペースノイドの自治独立を獲得出来ると言う穏健な思想にシフトしていた事になるが、それはエウーゴという組織の中で指導的なポジションを与えられていた充足感に原因が有ったのかもしれない。


 一方でUC0085年あたりからティターンズも単にスペースノイド独立運動の過激派を弾圧するだけの組織に留まらず、連邦軍全体を支配しようと言う覇権主義的な性格を強くしていき、自らの権限を拡大するための工作としてジオン残党に裏から資金を流して育てるというマッチポンプ方式で自らの必要性を強調するなど、暴走をはじめて行く。


 こうしてUC0086年頃からエウーゴのティターンズの抗争が顕在化して来る中でアクシズでは異変が起き始めていた。エウーゴの活動にかまけてアクシズを顧みないシャアの行為を裏切りと見なした一部の将校達が立案し、ミネバ•ザビを君主として既に死去していたマハラジャ•カーンの娘であるハマーン•カーンを摂政とする新生ジオン公国、つまりネオジオンを興す方向で動き始めたのだ。


 そしてエウーゴとティターンズによるグリプス戦役が激化する中、第三勢力としてハマーン•カーンのネオジオン(つまりアクシズ)がアステロイドベルトから地球圏に進出してくる。しかしこのネオジオンの早すぎる決起はアクシズを単なる過激派に貶めるものであり、長いスパンで政治的な正当性をもってジオンを再興させる事を考えていたシャアにとっては容認出来るものでは無かった。その一方でハマーンの狙いはグリプス戦役のドサクサに紛れてサイド3を奪還し、新生ジオン公国の基礎を築く事にあった。


 エウーゴとネオジオンはティターンズという共通の敵を前にして一時的な不可侵条約を結ぶが、そのスキを付いてネオジオンはサイド3とグラナダを制圧し、ジオン公国の再興を宣言する。しかしそれは過激派にジオン共和国が乗っ取られたというのが実情であり、民衆の支持を得ているとは言い難い状況であった。ただ、サイド3を巡る攻防戦に駆り出されたティターンズはそれによって戦力を低下させる事になった。これは当時の連邦政府内で既に暴走するティターンズを疎ましく思う流れが顕在化していたため厄介払いの意味もあってティターンズがサイド3攻防戦に駆り出されたという側面も大いにあったのだ。


 ここで戦力の低下したティターンズに支持基盤を拡大し戦力の増大していたエウーゴが一気に攻勢をかけ、ティターンズを壊滅させる作戦に出た。しかしこの作戦の中盤でネオジオンがエウーゴとの不可侵条約を破り、ティターンズとエウーゴの双方に攻撃を仕掛けて来る事で三つ巴の戦いに発展してしまう。


 ところで、なぜネオジオンはエウーゴに攻撃を仕掛けたのか。この当時既にティターンズは過激な行動がアダとなって既に支持を大きく失っており、ネオジオンとのサイド3攻防戦で戦力もダウンさせていた。その結果、対抗勢力であるエウーゴが連邦軍内で支持を集め始めていたが、それはグリプス戦役という「連邦軍内部の内乱」においてエウーゴが勝利する事を意味していた。となればティターンズに勝利した後のエウーゴは正当な連邦軍として機能する事になるのだが、グリプス戦役でティターンズという精鋭部隊と戦って来たエウーゴが連邦軍における最強の精鋭部隊となりネオジオン討伐に駆り出される事は明らかであった。故にグリプス戦役が終わる前に少しでもエウーゴの戦力を削いでおきたいと言うのがネオジオンの考えだったのだ。そしてこの三つ巴の戦いの中でティターンズは壊滅し、シャアは行方不明となり、カミーユは精神に異常をきたしてしまう。


 なお、エウーゴがネオジオンと戦った事は連邦軍上層部でエウーゴに対する信頼性と評価を大きく向上させる結果となり、結果的にエウーゴは連邦軍に正式な精鋭部隊として組み込まれ、ネオジオン討伐のための主力部隊として利用される事になる。これはネオジオンにとっては皮肉な結果となった。仮にネオジオンがエウーゴを叩きに出て来なければジオン残党兵の多いエウーゴは対ネオジオン戦争の主力から外されていた可能性もあるからだ。ただ、それでもやはりジオン出身者はエウーゴが連邦軍に組み込まれるに当たって排除され、その代わりに自由な進路選択を許されたと言う。なお連邦軍に取り込まれたエウーゴの機体は順次連邦軍カラーに塗装されて行く。そしてこの部隊、つまりエウーゴからジオン出身者を除いた部隊は後にロンドベル隊となる。


 またネオジオンに制圧されたジオン共和国も黙ってはいなかった。最初こそ大戦後もアクシズに潜伏していたジオン兵に対する畏怖の念を抱いてはいたがハマーンの若さと幼いミネバを担ぎ出す手法、そして何よりかつてジオン公国を破滅に追い込んだギレンやキシリアを彷彿とさせる専制的なやり口を危険視する声は次第に大きくなっていく。そして連邦との和平を経てジオン共和国の主流派となっていた穏健派(デギン派、反ザビ派、ダイクン派)がハマーンがアクシズに帰投したタイミングを狙って共和国内に入り込んだアクシズ関係者を拘束、共和国軍を動かしてアクシズにサイド3からの撤退を要求したのだった。この時に内通者として共和国に利用されたのがグレミー•トトであった。この共和国政府の決断は今のアクシズと組むよりも、対決姿勢を明確にして連邦政府からの信頼を得た方が自治独立を実現するための現実的かつ確実な道だろうと共和国政府が考えたからである。実際、この行動が認められ、ジオン共和国は自治権を大幅に取り戻す事に成功する。


 こうして孤立したハマーンのアクシズに対して連邦軍の精鋭部隊と化したエウーゴの攻撃が始まり、ネオジオンはハマーンの戦死とアクシズの破壊により瓦解し敗北する結果となった。なお、この時エウーゴの独立部隊として機能したネェル•アーガマにはジュドー等が搭乗していた。グリプス戦役の終盤にネオジオンが参戦して来てから瓦解するまでの戦いを第一次ネオジオン抗争と言う。


 ところで、ジオン独立戦争後にサイド3の外れに難民収容のために建設されたスウィートウォーターと言うコロニーが有ったが、ここにはサイド3に向けて亡命して来た者などジオンシンパの難民が多くくらしていた。このいかにも過激派の温床となりそうな環境に目を付けたのがグリプス戦役後のシャアで、シャアはダイクン派の人脈を利用し「Red Comet Foundation(赤い彗星基金)」を設立し 自らの存在を臭わせながら、スウィートウォーターの人民を救済していく活動をUC0088年から開始して次第に影響力を拡大していく。そして共和国政府のダイクン派の手引きによりグラナダのアナハイムと接触し、新造戦艦とモビルスーツの開発生産に着手した。


 そしてUC0092年、満を持して完成した艦隊を率い公にスウィートウォーターに進出、住民の圧倒的支持を得て、コロニー内でホログラム映像を使いネオジオンの発足を宣言する。外交権を取り戻していたジオン共和国はこのシャアのネオジオンと同盟関係を結ぶ事を発表し、ネオジオンは実質的にジオン共和国軍の精鋭部隊となる。自治権を獲得したとは言え、当時のジオン共和国は新造戦艦やモビルスーツの開発が許されておらず、旧式艦や連邦軍から払い下げられたハイザック等を使用していたから、最新兵器を装備するシャアの艦隊が存在する意義は非常に大きかったのだ。


 そしてUC0093年、シャアのネオジオンは連邦軍に対して宣戦を布告し、艦隊戦の末、ロンドベル隊のアムロ•レイ等と交戦しつつも5thルナを制圧。いつでも地球に落下させられる状況を作り出した上で連邦政府に停戦の条件として、アクシズの売却とスウィートウォーターをジオン共和国に正式に編入させる事、さらにジオン共和国に完全な自治権を復活させる事を要求する。


 これらはかなり大胆な要求であったが、その引き換えとしてシャアがネオジオンの武装解除と言う驚くべき提案を出した事により受け入れられる。連邦軍としてはネオジオン艦隊を欠いたジオン共和国軍などは現在の戦力比で言えば敵では無かったので、後で難癖を付けてジオン共和国軍を叩く事は可能であったのだが、彼等にその気が有ったのかは定かでは無い。しかしシャアとしては当然そうした実情は理解していたので、この完全な自治権の復活にシャア自身やジオン共和国政府は何の価値も見いだしてはいなかったし、それが仮初めの完全自治権である事は誰の目にも明らかであった。ジオン共和国軍を偽装した連邦軍の特殊部隊がどこかのサイドで一暴れすれば簡単に消し飛ぶ程度の物だったからだ。そして事実、この停戦協定は見せかけの欺瞞であった。


 そして共和国軍の旧式ムサイ艦隊の護衛のもと、第一弾として艦隊の半数を率いてルナツーに武装解除のために現れたシャアは協定を翻し、ルナツーの連邦軍艦隊に攻撃を加え、これを制圧。ルナツーという連邦軍最大級の軍事拠点を黙らせた上で残りの半数の艦隊を率いて既に入手していたアクシズを地球に落下させる作戦に着手するのであった。


 ところでなぜシャアはアクシズ落とし等と言う急進的な手段に訴えたのか。大戦後エウーゴで平和的かつ政治的に連邦政府に働きかけてスペースノイドの自治独立を実現しようと動いてはみたものの、そこで連邦政府だけでは無くエウーゴ自身の腐敗も間のあたりにしたシャアはハマーンのネオジオンを見て初めはその過激で急進的な手法を否定するものの実際に戦って行く過程でそこから学ぶ事もあり、結局は「いつか誰かが業を背負わなければならない」という考えに行き着いたのだった。

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